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ソーシャルデザイン
パーマカルチャー(Permaculture)
パーマカルチャーとは
「パーマカルチャー」(Permaculture)は、石油などの化石燃料に依存する暮らしを改めて、太陽や自然の恵みを活用して循環型の社会を築こうという思想とそれを実現するためのデザイン手法である。「パーマネント(永続的)」と「アグリカルチャー(農業)」または「カルチャー(文化)」をつなぎ合わせた造語で、農を基礎とした循環型の暮らしや、さらには持続可能な文化や社会の創造を目指すものである。農業、林業、建築、エネルギーなど様々な分野の技術や知見を横断的につなぎ、暮らしや社会をデザインする。例えば、有機農業や自然建築など、生物資源や再生可能エネルギーを利用した循環型で環境負荷の小さい暮らしや地域コミュニティづくりをおこなう。1970年代にオーストラリアの研究者ビル・モリソンとデビット・ホルムグレンにより体系化されたが、日本や東アジアで歴史的に営まれてきた里山、農村の自然循環型の農業や暮らしのあり方に強い影響を受けている。
パーマカルチャーでは、「ニーズ」と「資源」という考え方を使う。ニーズとは、人や生きものが、生き、繁栄するために欲するものである。空気、食べ物、飲み物、快適で安全な空間、他者とのつながりなどだ。資源とは、太陽の光、水、植物、動物、エネルギー、建物、人の知識、資金など、システムをデザインするにあたって利用可能なものである。それらの資源を有機的につなぎ合わせることにより、人や生きもののニーズを持続的に満たすことのできるシステムをデザインする。廃棄物の発生や汚染などの環境負荷をできるだけ小さくするだけでなく、自然生態系の再生(リジェネレーション)を目指す。つまり、パーマカルチャーとは、人と自然が共に豊かになるための暮らしや社会のデザインの考え方や手法である。
パーマカルチャーの対象とする領域
パーマカルチャーでは多様な領域を扱う。建築、技術、土地や自然のケアといった物理的に場を作るハードの分野だけでなく、教育、健康、経済、コミュニティといったソフトの分野もカバーする。例えば、人のつながりを取り戻すことにより地域の課題を解決したり、地域通貨によりコミュニティ内での物の循環を活発にしたりということも含まれる。それらは一見別々の分野のように見えるが、いずれも資源をつないでニーズを満たすデザインとなっている(この分野はソーシャルパーマカルチャーと呼ばれる)。パーマカルチャーの多様な領域の大本には、次節で説明するパーマカルチャーの倫理とデザイン原則がある。倫理とデザインの原則に従って各領域を横断的に縫い合わせていくことで持続可能な文化や社会を作っていくのである。
パーマカルチャーの倫理とデザイン原則
パーマカルチャーの考え方のベースには3つの倫理がある。

パーマカルチャーのデザインや実践は、常にこの倫理に従っているかを問いながら行っていく。また具体的にデザインする際には、原則を取り入れることでつながりのある循環型で持続可能なシステムをつくっていく。
倫理 | 説明 |
---|---|
地球を大切にする (Earth care) | 地球は人を含むあらゆる生命を支えるものであり、人や社会の健康、福祉の究極的な基盤であることから、地球や自然生態系を健全に保つ必要があるという考え方である。 |
人を大切にする (People care) | 人を大切にするとは、人の根源的なニーズ(例:生命の維持、安全の保障、自由、つながり、信頼など)を満たすことである。ここでいう人とは、他者だけでなく、自分自身が含まれる。さらには将来世代も含む。 |
豊かさを分かち合う (Fair share) | 自分の必要以上の豊かさが得られたら、他の人や生きものと分か ち合おうという考え方である。もっともっとと欲を拡大するので はなく、足るを知り、それ以上のものは、「地球を大切にする」、「人 を大切にする」ために使おう。 |
番号 | 原則 | 内容 | 例 |
---|---|---|---|
原則1 | つながりある配置 | 関連する要素を近くにおいて互いに助け合うように配置しよう。 | 雨水タンクを菜園の近くに置く。 |
原則2 | 多機能性 | それぞれの要素が複数の機能を発揮できるようにしよう。 | 果樹を植えて、果物の生産、風よけ、 日陰づくり、蜜源などの機能を生 み出す。 |
原則 3 | 多くの要素による重要機能の維持 | 重要な機能は、複数のものによって満たせるようにしよう。 | 水源は、雨水、川の水、水道などで確保する。 |
原則4 | 効果的なエネルギー計画 | エネルギーや労力、時間の消費が少なくなるように物を配置しよう。 | 頻繁に使うものは近くに、頻度の低いものは遠くに配置する。 |
原則5 | 生物資源、再生資源の活用 | 再生可能な資源や植物や動物などの生物が生み出す資源や機能を活用しよう。 | みつばちを飼育し、果菜や果物を自然に受粉してもらう。 |
原則 6 | エネルギーの循 環 | 外から入る栄養素やエネルギーを捉え、貯え、繰り返し活用しよう。 | 台所の生ごみをたい肥として利用する。 |
原則 7 | 小規模集約システ ム | 土地全体を効率よく利用するために、小規模で密度の高いシステムをデザインしよう。 | 果樹や野菜を一緒に植えて、立体的に空間を使う。 |
原則 8 | 自然遷移の加速 | 自然が自ら変化する力をうまく活用し、その場を豊かにするようにデザインしよう。 | マメ科の植物を緑肥に用いて、土に窒素を固定し豊かにする。 |
原則 9 | 多様性 | 多様な生き物が相互に助け合い、活かし合う関係性をデザインしよう。 | 単一栽培でなく、コンパニオンプランツを混植する。 |
原則 10 | エッジ効 果 | 異なる環境が接するエッジの豊かさを活かそう。 | 水と土が出合う池の淵でクレソンなどの半水生植物を育てる。 |
参考文献
ビル・モリソン,レニー・ミア・スレイ(1993)『パーマカルチャー農的暮らしの永久デザイン』農文協設楽清和(2010)『パーマカルチャー菜園入門自然のしくみをいかす家庭菜園』家の光協会