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ソーシャルデザイン

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)

作成: 明石 修

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)とは

社会関係資本とは、集団における人々の関係性やつながりを表す言葉である。社会関係資本は、人々が他人に対して抱く「信頼」や、お互い様などの言葉で表現される「互酬性の規範」、人々の間の「ネットワーク(絆)」からなる。社会関係資本が豊かな集団では人々の協調行動が活発になるため、集団としての効率性が高く、市場では評価しにくい価値が生み出される。たとえば、大災害が発生したときに、豊かな社会関係資本のある社会では、住民同士が譲り合いや助け合いをおこなったり、警察や消防が機能しない中であっても治安が維持されたりする現象が見られる。
社会関係資本には、同質なもの同士が結びつくボンディング型(結束型)と異質なもの同士を結びつけるブリッジング型(橋渡し型)がある。家族や地域のご近所づきあいなどはボンディング型の例である。ボンディング型の社会関係資本は結束が強く、互酬性の規範が集団にいきわたりやすいため、集団内で安心や信頼が醸成されやすい。ブリッジング型の社会関係資本は、経験や価値観、背景の異なる個人のつながりである。多様な人がつながるネットワークであるため、異質なものと出会ったり、新しい情報が手に入るといった特徴がある。

社会関係資本はサステナビリティとどう関係するか

社会関係資本は、我々の社会のあらゆる面に影響することが様々な研究で指摘されている。表1に示した影響は、いずれも社会のサステナビリティに対するポジティブな影響の例である。また、近年日本では「新しい公共」という言葉が聞かれる。「新しい公共」とは、教育や子育て、街づくり、防犯や防災、医療や福祉などの分野で市民や地域組織、企業、政府などが協働し、支え合いと活気のある社会をつくっていこうとするものである。「新しい公共」は、低成長、人口減少時代を迎えている日本でサステナブルな社会を築くためには必要な考え方であろう。様々な関係者の協働する社会においては、関係者間のネットワークやお互いに対する信頼、つまり社会関係資本が重要な基盤となる。その意味において、社会関係資本はサステナブルな社会づくりの鍵となると言える。

分野社会関係資本の影響の例
企業を中心とした経済活動企業内での閉じたネットワークは、メンバー同士を強く結びつけ一致団結した行動を取りやすくする。開いたネットワークは多様な人や情報が交じり合うためイノベーションを生む効果がある。
地域社会の安定社会関係資本の豊かな社会は、地域コミュニティの一体感を醸成し、犯罪の抑止に効果がある。また、ボランティア活動などによる地域課題への対応に良い影響をもたらす。
健康所得格差の大きい社会は社会全般への不信感を増大させ、結果として死亡率を上昇させる。逆に、社会関係資本が良好であれば健康状態も良好な傾向があることが指摘されている。
教育教育水準の高い人ほど社会全般に対する信頼が高く、ネットワークが大きい。国別の比較では社会全般に対する信頼度が高い国ほど識字率が高い傾向がある。学級内の社会関係資本には学業成績と退学抑制の効果がある。
政府の効率社会に対する信頼度が高い国ほど、政府の腐敗度が低く、官僚機構の質と納税遵守度が高く、インフラの整備が行き届き、法制度の効率性との整合性が高い。信頼と互酬性の規範のある地域は、官民の協調が行われやすく、行政コストの低減につながる。
災害に対するレジリエンスアメリカにおける研究では、社会的なつながりの強い地域では、地域コミュニティでの共助が働くため、気象災害による影響や被害が少ない傾向がある。
表 社会関係資本が社会におよぼす影響の例

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