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サステナビリティ(持続可能な発展)

作成: 白井 信雄

サステナビリティという概念の曖昧さ

サステナビリティとは、極めて端的にいえば、現在だけでなく、将来にもわたって、長く持続可能であることである。しかし、誰にとっての何がサステナブルなのか、サステナビリティを実現した社会はどのような姿か、それを実現するために何をすべきか。これらの問いに対する答えは多様であり、曖昧なままである。曖昧であることで、サステナビリティに向けた様々な立場や考え方が正当化され、参加と協働が促されてきた。しかし、曖昧さを看過できないことも多い。

例えば、気候変動防止のために再生可能エネルギーの大量導入が必要であり、それへの投資による経済成長(グリーン成長)が期待されている。しかし、メガソーラーが立地する地域では、それが地域の環境破壊となっているばかりか、事業主体が地域外の資本であることが多く、地域経済の活性化や地域課題の解決に効果をもたらさないことが問題となっている。環境と一部の企業のサステナビリティが、地域のサステナビリティを阻害しているのである。また、サステナビリティを実現した社会では、AIやロボット等の技術はどのように利用されているのか。経済成長の追求を続け、それと環境保全との調和を図るのか。少子高齢化が進むなかで山間等の条件不利地域では消滅可能性が高まっているが、都市部に居住を集中させて全体として効率性が高まればいいのか。こうした議論を深めることがないままに、サステナビリティを枕詞にして、出来るところからの小さな行動を正当化し、根本的な問題解決を先送りにしてきている。

その他、サステナビリティの曖昧さがもたらす失敗の例を表1に示す。

表1 「サステナビリティの曖昧さ」による失敗の例

単視眼的・気候変動防止のためのメガソーラー普及による地域環境の破壊、住民の反対
短絡的な行動主義・できるところから始める行動の優先、それゆえの効果のなさ
トップダウン・国民との対話がない政府によるエネルギー政策、強い規制と管理による環境保全
強者の視点(弱者の視点の欠如)・脆弱な地域における気候変動の影響に関する想像力の欠如、それゆえの強者による弱者の問題の軽視
人間中心(生態系の視点の欠如)・人間のための生態系サービスの捉え方、自然の持つ存在価値の軽視
異なる価値観との対立・多様な価値観や前提による考え方の違いを理解しあうプロセスの不足、合意はされたが実行されない
利益・効率優先の弊害・利益をもたらさない小規模でスローな活動の軽視、住民を置いてきぼりにした急速度の対策
先進国の無責任・先進国が受益を得て加害者となり、開発途上国が受益が少ないままに被害者となる構造
根本的解決の先送り・大量生産・大量消費・大量廃棄型の生活様式からの転換を先送りするリサイクル推進

持続可能な発展の概念の変遷

サステナビリティ(持続可能な発展)という概念の曖昧さは、国際社会における「持続可能な発展」に関する議論の経緯から理解することができる。持続可能な発展という概念は、1970年代・1980年代から提示され、1990年代のリオ宣言において確立され、2000年以降に重点を変えながら、定着してきた(表2)。1970年代後半、クーマーは「環境制約下での成長」という観点で持続可能性を定義した。地球は1つで有限であり、資源・エネルギー(地下にある石油等の化石資源)、食糧や水等の利用可能量(環境容量)が人類の活動量の制約となることを示した。

持続可能な発展の初出は、1980年の世界自然保護戦略とされる。同戦略は「開発と保全の調和」を持続可能な開発と表し、保全とは将来世代と現在世代を両立させる生物圏利用の管理と定義した。公式に持続可能な発展の考え方が示されたのは、1987年の環境と開発に関する世界委員会報告「われら共有の未来」である。同報告では、「持続可能な発展」を「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような発展」と定義した。

さらに、1992年にリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議(リオサミット)」において、リオ宣言、アジェンダ21の中に、「持続可能な発展」の考え方が記され、合意を得ている。リオサミットから10年後の2002年に南アフリカのヨハネスブルクで開催された「持続可能な開発に関する世界サミット」、そして20年後の2012年に再びリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議」において、リオサミットで示された持続可能な発展が基本理念として継承された。

ここまでの経緯で知るべきは、1990年代以降は、国際的な環境保全への協調が、開発途上国の経済成長の抑制にならないようにという配慮から、持続可能な発展という考え方が玉虫色に解釈できるマジックワードのように使われてきたことである。持続可能な発展という言葉は、当時の政治的妥協による合意の産物という性格があり、持続可能な発展の明確な規範や根本的な問題の議論が先送りにされてきたことは否めない。

以下では、サステナビリティと持続可能な発展は同義として、記述する。

混迷する持続可能な発展の考え方の整理

環境と経済、社会の3側面のバランスをとることが持続可能な発展の規範だとする向きもあるが、これもまた玉虫色に解釈できる曖昧な考え方である。持続可能な発展の考え方が混迷する一方で、多様化した規範を整理する研究が行われてきた。国立環境研究所(2011)は、持続可能な発展に関する領域横断的な規範を既往研究等から抽出し、次の4つの観点を整理している。①と②の規範は、ハーマン・デイリーの3原則を踏襲したもので、人間活動と環境の関係に着目する。③は持続可能な発展の「発展」における人間社会の規範、④は①~③を補完し、サステナビリティの確保をより確実にするものである。

  1. 可逆であること
  2. 可逆ではなくとも、代替できること
  3. 人の基本的なニーズを満たすこと
  4. より安定的であること

2010年代に入り、持続可能な発展の具体的目標として、SDGsが策定された。SDGsは、2001年に作成された「国連ミレニアム目標(MDGs)」の後継としても位置づけられた。MDGsが社会的な側面を重視した内容であるため、それを取り込んだSDGsは社会面を重視した内容となっている。「誰一人取り残さない」という社会的包摂の考え方が強く打ち出されたことにも特徴がある。すなわち、SDGsは、持続可能な発展の規範として特に広範で曖昧であった社会面の理念と具体的な目標を明確にした点で意義深い。

表2 国際社会における持続可能な発展の概念の変遷

年代代表的な定義段階
1970年代クーマーの定義(1979年)・持続可能な社会とは、その環境の永続的な制限の内で営まれる社会のことをいう。その社会は…成長しない社会ではない…それは、むしろ成長の限界を知っている…また、他の成長方法を模索する社会である。環境制約に対して持続可能性が提起
1980年代世界自然資源保全戦略(IUCN/UNEP/WWF、1980年)・「持続可能な開発」という表現を文書で使い、「開発」と「保全」について定義づけ。『開発』:人間にとって必要なことがらを満たし、人間生活の質を改善するために生物圏を改変し、人的、財政的、生物的、非生物的資源を利用すること。『保全』:将来の世代のニーズと願望を満たす潜在的能力を維持しつつ、現在の世代に最大の持続的な便益をもたらすような人間の生物圏利用の管理。世代間での持続可能性が提起
環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)報告書(1987))・持続可能な発展を将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発と定義
1990年代国連環境開発会議(リオサミット、1992年)・環境と開発に関するリオ宣言、アジェンダ21の中心的概念として「持続可能な開発」を採用。リオ宣言の原則4では、「持続可能な開発を達成するため、環境保護は、開発過程の不可分の部分とならなければならず、それから分離しては考えられないものである。持続可能な発展の概念の確立
2000年代国連環境開発会議(ヨハネスブルグサミット、2002年)・ヨハネスブルグ宣言において、「我々は、持続可能な開発の、相互に依存しかつ相互に補完的な支柱、即ち、経済開発、社会開発及び環境保護を、地方、国、地域及び世界的レベルでさらに推進し強化するとの共同の責任を負うものである」として示した。持続可能な発展の概念の定着
2010年代国連環境開発会議(リオ+20、2012年)、国連持続可能な開発サミット(2015年)・1992年から20年後、再びリオで開催された会議で目標の具体化が提案され、2015年に持続可能な開発目標(SDGs)が制定された。SDGsの理念を示すアジェンダでは、社会的包摂(誰一人取り残さない)を強調した。持続可能な発展の目標の明確化
出典)環境省資料等をもとに筆者作成

持続可能な発展の規範で重要なこと

ここまでの整理を踏まえ、持続可能な発展の規範として重要な4点を記す。

第1に、持続可能な発展では、将来のためにも現在の人間活動の活力が確保されている必要がある。現在の活力が将来の活力を築く基盤となるからである。ここで注意すべきは、将来を築く活力は経済面だけでなく、社会面、あるいは人の生き方の側面にもあることである。経済の量的成長ではなく、質を変えることで活力を高めることも考えなければならない。このことに関連して、「ウェルビーイング」や「コンヴィヴィアリティ」、「自己充足」等をどのように実現するかを深く考えなければならない。

第2に、他者に配慮するという制約の中で活力確保されないと持続可能な発展にはならない。ここでいう他者への配慮とは、人間による環境への配慮(環境・資源制約への配慮)と人間間での配慮(公正・公平への配慮)の2つの側面があり。関連して、環境面では「プラネタリー・バウンダリー」、社会面では「社会的包摂」や「公正・公平」、「環境正義」等の観点を深く理解する必要がある。

第3に、他者への配慮をしていたとしても、自然災害や想定外の災害は起こりえる。そのことが持続可能性を損なうことになるため、災害への備えが必要となる。特に、高齢化や財政難等から人間側の脆弱性(感受性)が高まる傾向にあり、このことが災害の被害を大きくする状況にある。関連して、「レジリエンス」の考え方の具体化が重要である。

第4に、持続可能な発展にかかる規範は相互作用の関係にある。環境への配慮が人間活動の活力を抑制する(我慢させる)というトレードオフの側面があれば、環境への配慮への参加を通じて人間活動の活力が高まったり、逆に環境への配慮をしないことで人間活動の活力が弱まるといったシナジーの側面がある。トレードオフを解消するとともに、正の作用によるシナジー効果を発揮する工夫が必要となる。例えば、環境保全への取り組みをビジネスチャンスとしたり、それによる人と人とのつながり(「社会関係資本」)を強めるなど、「環境と経済・社会の統合的向上」を図る創意工夫が求められる。

社会を転換するのか•しないのか

持続可能な発展の規範を満たすとしても、それを具現化する社会は1つの姿になるとは限らない。これまでの社会経済システムは、経済成長や技術革新、効率的な経済活動の拡大、大都市への集中、利益の福祉への還元という方針を一貫して追い求めてきた。今日では、近代化の弊害としての弊害があったとして、それを改良した「エコロジー的近代化」によって乗り越えていこうという考え方が政策の主流となっている。

しかし、それとは異なる社会、すなわち、巨大技術ではなく適正技術、効率よりも公正、外部依存よりも自立共生を重視して、社会転換を図る動きもある。代替社会へのトランジションは慣性社会から離れる痛みや既得権益の抵抗もあって、一筋縄ではいかない。それでも慣性の社会が行き詰まるときへの備えとして、トランジションを進めていくことも考えなければならない。

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