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レジリエンス

作成: 新津尚子

しなやかな強さ

レジリエンス(Resilience)とは、「しなやかな強さ」を意味する言葉である。「復元力」「弾力性」などと訳されることもある。大風の時、竹はポキッと折れることなく、しなることで耐える。そして嵐がおさまると元に戻る。レジリエンスとはそうした「しなやかな強さ」を指す。この用語は、生態学、心理学、災害研究など幅広い分野で使用されている。

例えば現在、サンゴの白化が問題になっている。白化は海水温の上昇などにより生じる現象で、長引くとサンゴは死んでしまう。ただし、同程度の海水温の上昇が生じた海域でも、「一時は白化したけれども、回復する海域」もあれば、「サンゴが死んでしまう海域」もある。なぜか。

同様に、同レベルの災害後にしなやかに復興する地域社会もあれば、復興が進まない地域もある。不幸に見舞われた後、比較的すぐに立ち直る人もいれば、長い間、立ち直ることが出来ない人もいる。

自然界にも、人間の社会にも、一人ひとりの人間にも、レジリエンスの高い、低いがある。その違いは、システム全体を見渡すと見えてくる。

システムと撹乱

海水の高温化や災害、不幸な出来事など、あるシステムに大きな影響を与える出来事のことを撹乱という。システムとは「いろいろな要素がつながって出来ている組織や体制、構造」を指す。サンゴを取り巻くシステムは海水、海底の土、潮の流れなど様々な要素からなっている。地域社会の場合、その土地の風土、建物、人々のほか、その地域を支えている様々な要素がシステムに含まれる。

図 システムのレジリエンスを高めるために大切なこと

そして同程度の撹乱、例えばサンゴが同程度の高温にさらされた場合は、海水や土壌が汚染されている海域は、汚染されていない海域よりも、サンゴは回復しにくい。だからレジリエンスを考えるときは、「サンゴ」といった一要素だけではなく、それを取り巻くシステム全体を考える必要がある。

どうすればレジリエンスを高められるのか。よく取り上げられるのが、多様性、モジュール性、フィードバックである。一つひとつ見ていこう。

多様性:「一種類だけに頼らないこと」で、レジリエンスを向上させる

送電網から供給される電気だけにエネルギーを依存している地域で停電が生じると、大変な被害が生じる。一方、太陽光発電や小水力発電、ガス、炭など多様なエネルギー源を持つ地域は、停電の影響を小さくできる。システムに多様性があることで、撹乱の被害を受けにくくなる。 もう少し例をあげよう。米には寒さに強い品種、害虫に強い品種など、さまざまな特徴の品種がある。寒冷地で寒さに強い品種だけを植えれば、通常の年の収穫量を増やせる。ただし、急な高温といった撹乱には弱い。組織の場合はどうだろう。同じようなタイプの従業員が多い企業は、普

段は居心地がよく、業績もよいかもしれない。ただし、突然の不況や時代の変化など、組織にとっての撹乱が生じた場合には、多様なタイプの従業員がいる組織のほうが、撹乱に対応するためのアイデアが出やすいだろう。

「レジリエンスを高めること」と、「通常時の効率性を高めること」は、必ずしも両立しないことには注意が必要である。

モジュール性:切り離せる部分を持つことで、レジリエンスを向上させる

ここでの「モジュール性」とは、いざという時に、つながりから切り離 せる、ということである。停電の例だと、送電線が遠くの地域までつながっていて、いざという時に切り離せないシステムの場合、ある場所で生じた停電の影響が、広い地域に広がる。さまざまな路線が乗り入れている鉄道システムは、普段は、乗り換え回数が少なくて済むが、遅延の影響が広範囲に出てしまうのも同じ構造である。

あるいは、グローバル化が進んでいる社会では、他国で起きた災害により、食料や物資が世界的に不足することがある。そのような場合は、自給率が高い国や地域の方がレジリエンスは高い。「つながっていること」により、通常時には効率がよいシステムを構築できるかもしれない。しかし撹乱が生じた場合には、悪影響も「効率よく」広がってしまう。だから、いざという時に、切り離して自立できる分散型の仕組みが重要である。

フィードバック:適切な反応により、レジリエンスを向上させる

適切なフィードバックはレジリエンスを高める。社会にはさまざまなフィードバックの仕組みがある。例えば、褒められたり、よい評価を得ると、

「その方法を続けても良い」と感じるのもフィードバックの一例だ。 自然界にもフィードバックはたくさんある。水がきれいな湖では、大抵、湖の植物がリンや窒素などの汚染物質を浄化する機能を担っている。だから少々汚染物質が流入しても、「澄んだ湖」は保たれる。この働きがフィードバックである。ただし、植物が浄化できないほどリンや窒素が流入すると、このフィードバックは失われ、藻が繁茂して湖は濁ってしまう。

フィードバックが遅すぎたり、間違えていたりすると、レジリエンスは低くなる。だから評価基準が間違えていないか、時代遅れではないかを定期的に見直し、適切なフィードバックの仕組みをつくることが重要である。

なぜレジリエンスが重要なのか

現代はリスク社会である。世界的には気候危機や政情不安、日本国内をみても高齢化や人口減少など、現在の社会は様々な撹乱要因にさらされている。AI 化の進行も、多くの職業にとっては撹乱要因だろう。変化が激しい社会では、これまでの常識は通じない。
そればかりではない。ここまでみてきたように、短期的な効率性を追い求めることによって、レジリエンスが損なわれることがある。レジリエンスを高めることで、自然も、社会も、人も、ポキッと折れてしまうことなく、しなやかに立ち直ることができる。長期的な視野に立ち、システム全体を見通す力を持つことが、これからのリーダーたちに求められている。

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