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人新世・脱成長・ 定常型社会

作成: 大倉 茂

人新世

われわれは今、「人新世(Anthropocene)」にいるといわれている。そもそもは完新世に次ぐ地質年代として提起された概念であるが、地質年代としての議論も引き続き続けられながらも、地質学だけではなく、自然科学、そして社会科学、人文学においても広く議論されている。人新世とは、大きくいえば、地球に対して人間の活動が大きな影響を与えている年代として理解できる。気候変動などの自然科学的な知見だけでなく、われわれの生活実感としても十分に捉えることができる。こういった気候変動は、典型的な人新世における出来事なのだが、これは人間の活動が気候にまで影響を与えるようになったことを示している。
それでは、われわれが今、人新世にいるとするならば、いつから人新世に入ったのか。農業の開始か、あるいは産業革命か。この点も議論が活発に行われているが、農業の開始でも、産業革命でもなく、概ね20世紀中頃を人新世の開始点とする結論に収束しつつある。この20世紀中頃を画期として、人間の活動が指数関数的な量的拡大を見せている。この人間の活動の指数関数的な量的拡大は「大加速」(Great Acceleration)と呼ばれている。
啓蒙主義者、ヘーゲル、マルクスらによって定式化された進歩史観を下敷きにしながら、近代以降、われわれは量的な拡大を、成長、あるいは発展と呼び、グローバルに自明視されている共通の目標である。持続可能な発展が提唱されてもなお、そこに「発展」という言葉が入っていることはわれわれにとって成長・発展路線がどれだけ強固な思想であるかを示している。

図 新生代の地質年代

脱成長と定常型社会

もし人新世に見られる諸現象が、大加速によるのであれば、現代社会にはびこる成長・発展を反省することが求められる。そういった流れのなかで、昨今注目されているのが、脱成長とその先に見据えられる定常型社会である。
人新世に至った原因が、近代社会の成長・発展路線にあるならば、それを脱する必要があるとするのが、脱成長の基本理念である。ここで注意が必要なのは、脱成長と低成長の違いである。低成長は、あくまでも成長を目指した上で結果として低成長になっているだけであり、脱成長はそもそも成長は目指さず、定常状態のなかで人間と自然の調和や人間の福祉の向上をはかる考え方である。定常型社会においては、J.S.ミルによって19世紀にはすでに論じられており、古くて新しい考え方であるといえる。脱成長も定常型社会も、成長・発展路線の圧倒的な影響力のなかで、その具体像を想像することも困難であくまで青写真であるが、将来社会の1つのオプションとして有意義な思想であると言える。
成長・発展路線、そしてその背景にある進歩史観は、近代の産物である。環境問題は、進歩史観というわれわれにとって基礎的な考え方にも反省を求めているのかもしれない。

参考文献


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