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社会的包摂
社会的包摂とは
人は社会との関わりの中で、衣食住を確保し、学習や労働を行い、生をつなぎ、充足を得ていく。社会との関わりから排除される(社会的排除がなされる)と、孤立やいじめ、ひきこもり、暴力や虐待、不安定就労、摩擦(トラブル)、貧困、精神疾患、自殺等のリスクが高まる。
こうした問題が深刻化する中で、提案され、社会保障や福祉の政策の検討課題となってきた考え方が社会的包摂である。社会的包摂とは、社会的弱者も含めて、誰もが社会との関わりを持てるように、社会的に全体を包み込むことである。
日本学術会議(2014)の提言では、社会的包摂の必要性として、「経済のグローバル化、雇用の不安定化、地域・家族の紐帯の弱体化等の経済社会の構造変化の中で、社会的に孤立し生活困難に陥るという新たなリスクが高まっている」とし、「人口減少下において、経済・社会の機能の維持・発展のために国民一人ひとりが貴重なメンバー」であり、「それぞれが潜在的な能力をできる限り発揮できる環境を整備することが必要である」と指摘している。
社会的排除とは
社会的包摂とは、社会的排除の反対語である。社会的排除は1980年代以降、低成長時代に入るなかで、失業と不安定な雇用が拡大し、若者の失業問題が深刻となった中で、社会保障や福祉のあり方を見直す考え方として生まれてきた。
日本では2000年以降、社会的排除の実態調査が進められてきた。諸外国では失業が社会的排除の大きな要因となっているが、日本の場合は就労をしていてもワーキングプアや不安定雇用の問題が強くあることが特徴だとされる。
内閣官房社会的包摂推進室(2012)では、社会的排除を受けている人として、ホームレス(住居からの排除)、非正規就労者(就労からの排除)、生活保護受給者(貧困)、シングル・マザー(機会からの排除)、薬物・アルコール依存症(機会からの排除)、自殺者(生からの排除)等を調査し、その実態を明らかにしている。
社会的排除の実態として問題となるのは、リスクが連鎖し、重層化して多次元のものとなることである(図1)。リスクの連鎖を断ち切るためには、個別のリスクに対応するだけでなく、教育、労働、福祉、医療、住宅等の行政分野が連携し、一体となった支援を展開することが必要となる。

地域における社会的包摂
社会的包摂を実現するためには、国や地方自治体、公益法人等による福祉の仕組みづくりとともに、地域におけるきめ細かい取組みが重要である。図2は厚生労働省が描き、推進している「地域共生社会」に向けた支援施策のイメージ図である。
この施策において、3点が重要である。第1に、自分だけでなく、家族や身近な人が誰もが、障害を持ったり、失業やトラブルにあう可能性があることを考え、問題を「自分事」として捉え、相互に支え合う関係をつくることである。
第2に、社会的排除の問題は多岐にわたり、相互に絡み合っていることから、地域内の福祉関連の団体だけでなく、まちおこしや産業、防犯、社会教育、学校教育等の多分野における企業やNPO等と一体となって取組みが求められる。
第3に、地域内の多分野の取組みを支援し、また制度的な専門性を持ったコーディネーターを市町村等の行政側で確保することが必要である。
環境問題と社会的排除
社会的排除の問題は、経済問題や環境問題とも関連する。経済問題との関係は双方向である。経済の不安定さが失業や貧困の問題を招き、排除されてしまっている人々の参画がなければ経済活動もおぼつかないからである。
環境問題と社会的排除の問題も双方向に関連する。深刻な環境問題が被害者と社会との関係を分断した出来事はこれまでも多くある。例えば、水俣病においては、企業城下町において地域社会を分断する状況が生じた。
原因が不確定な状況で、水俣病は「伝染病」として扱われ、社会とのつながりを断たざるを得ない状況になった。また、同じ住民でありながらも原因者である企業関係者と被害者住民が生じ、同じ患者であっても症状の程度によって補償金の違いから対立関係が生じることがあった。
一方、環境問題の解決と社会的包摂の同時解決の事例として、リサイクル事業における障害者雇用等がある。また、経済効率を追求することで環境問題や社会的排除の問題が生じていることを考えなければならない。

参考文献
日本学術会議(2014)「提言社会的包摂:レジリエントな社会のための政策」内閣官房社会的包摂推進室(2012)「社会的排除にいたるプロセス~若者ケーススタディから見る排除の過程~」