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脱炭素・カーボンニュートラル

作成: 三坂 育正

気候変動の将来予測と温室効果ガス削減

気候変動により異常気象をはじめとする影響が顕在化しており、世界で気候変動への取組みが必要である。気候変動がもたらす世界・日本への影響は、気候モデルや排出/濃度シナリオを用いて予測する。これらの予測結果から、気候変動による影響を抑制するためには、産業革命以降の世界平均気温の上昇を2°C以下にする必要があるとされる。すでに人為的活動による世界全体の平均気温上昇は2017年時点で約1.0°Cであり、現在のペースで進行すると2030〜52年の間に1.5°Cに達する可能性が高い。1.5°C未満の気温上昇達成のために、2050年までに全世界の年間温室効果排出水準をほぼゼロにする必要があるとされる。

気候変動への国際的な取り組み

気候変動を抑制していくための世界的な取組みとして、地球温暖化防止に向けた国際的な会議(COP)が毎年開催されている。COP(気候変動枠組条約締約国会議)とは、1992年採択の「国連気候変動枠組条約」に基づき、開催されている枠組条約締約国による会議で、1995年から毎年開催され、温室効果ガス排出削減に向けた取組みが討議・推進されている。
1997年に京都で開催されたCOP3において、6種類の温室効果ガスについて、法的拘束力のある排出削減の数値目標を掲げた「京都議定書」が採択され、2006年2月16日に発効した。京都議定書では、1990年の温室効果ガス総排出量を基準とし、2008年〜2012年の5年間に、先進国全体で少なくとも5%の削減を目指すとした。日本は、温室効果ガスを1990年比6%削減の目標を掲げ、2006年4月に「京都議定書目標達成計画」を閣議決定し、総合的な施策を展開してきた。しかしながら、京都議定書では、数値目標は先進国だけであること、当時最大の温室効果ガス排出国アメリカが離脱するなど、効果は限定的であった。
京都議定書での反省をもとに、2015年にパリで開催されたCOP21で、温室効果ガスの排出削減の目標値が設定された「パリ協定」が採択され、翌年発効された。パリ協定では、表の通り、先進国と途上国に温室効果ガスの排出目標が定められている。先進国には厳しい削減目標を課しているのに対し、途上国ではGDP辺りの排出削減目標となっているのが特徴的である。パリ協定においては、世界共通の長期目標として産業革命後の気温上昇を2°C以内に抑えること、また1.5°C未満へ抑制する努力の追求を掲げている。パリ協定には190以上もの国と地域が参加しており、地球温暖化防止の国際的な枠組みとなり、気候変動緩和に向けた明確な目標の策定と提出が行われ、それぞれの国・地域が推し進めている。日本は2013年度の排出量を基準にして、2030年度までに26.0%削減を目標としている。

表 パリ協定による各国の二酸化炭素排出削減目標

脱炭素•カーボンニュートラル

気候変動や地球温暖化は、人間活動による温室効果ガスの排出が主要因とされており、特に二酸化炭素CO2の濃度は産業革命前より40%も増加している。そこで、CO2をはじめとする温室効果ガス排出削減の取組みとして、「脱炭素」が進められている。気候変動による影響抑制のためには、将来的に温室効果ガスの排出を「全体としてゼロ」にする必要があるとされる。「全体としてゼロ」とは、「排出量から吸収・除去量を差し引いた合計をゼロにする」ことを意味し、排出ゼロは現実的に難しいため、排出せざるを得なかった分と同じ量を「吸収」または「除去」することで正味ゼロ(ネットゼロ)を目指すことで、温室効果ガスの排出がネットゼロのことを「カーボンニュートラル」と言う。産業革命以降の温度上昇1.5°C以内の努力目標達成には、2050年近辺までのカーボンニュートラルが必要との報告を受け、「2050年カーボンニュートラル実現」を目指す国際的な動きが広まっており、脱炭素社会の実現が求められる。
2021年4月に米国主催で気候サミットが開催され、各国に対してパリ協定に対して更なる気候変動対策を求められた。同サミットで、各国の首脳で、2030年を目標年とする各国が決定する貢献(NDC)の更なる引上げ、2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロの必要性等の議論がなされた。

日本におけるカーボンニュートラルへの道

日本の菅総理(当時)は、2021年の気候サミットにおいて、2030年度温室効果ガス排出を2013年度比46%削減、さらに50%削減に向け挑戦を続ける、と表明し、前年度国会での「2050年カーボンニュートラル宣言」に従い、本格的に取組むことを国際的な場で表明した。
我が国の温室効果ガス削減の中期目標と長期目標の推移(環境省作成)を基にした、2050年カーボンニュートラルに向けた取組みイメージを図に示す。実現に向け、省エネルギー、温室効果ガスを排出しないエネルギーへの転換、温室効果ガスの吸収・除去技術の展開等が重要である。

温室効果ガスの排出削減には、化石燃料を用いたエネルギー使用をゼロに近づける必要があり、エネルギー使用量を減らす取組みが必要である。この際、生活レベルが大幅に低下しないことが持続可能(サステナブル)の観点で重要である。その上で、化石燃料から再生可能エネルギーや水素、循環可能な資源など低炭素なエネルギーへ転換し、温室効果ガスの排出削減を図る。それでも削減が難しい排出分へは、植林による植物の光合成で吸収されるCO2の増加、CO2を回収し貯留するCCS(CarbondioxideCaptureandStorage)技術の活用が挙げられる。

図  2050年カーボンニュートラル実現のイメージ

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