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地域循環共生圏

作成: 中島恵理

地域循環共生圏とは?

地域循環共生圏とは、各地域がその特性を活かした強みを発揮し、地域ごとに異なる資源が循環する自立・分散型の社会を形成しつつ、それぞれの地域の特性に応じて近隣地域等と共生・対流し、より広域的なネットワークや経済的つながりを構築していくことで、新たなバリューチェーンを生み出し、地域資源を補完し支えあいながら農山漁村も都市も生かす地域づくりである。第5次環境基本計画(2018)において、地域レベルで、環境・経済・社会の統合的向上、地域資源を活用したビジネスの創出や生活の質を高める「新しい成長」を実現するための新しい概念として、地域循環共生圏を提唱した。
地域循環共生圏では、水、木材等の再生可能資源や交通、建物等の人工的ストック等の地域固有の資源を活かし、地域特性に応じて異なる資源を循環させる自立・分散型の地域づくりを目指す。自然と人との共生に加え、地域資源の供給者と需要者といった人と人との共生の確保も目指している。
地域循環共生圏では、お互いに連携・協力し合うことも重要である。例えば、農山漁村からは、食や水といった自然から得られるサービスを都市に提供し、都会からは、エコツーリズムやワーケーション等を通じ自然の恵みへの対価を支払うことで農山漁村及び都市の持続可能な地域づくりを支えあうことができる。
地域循環共生圏は、それぞれ対象とする資源や活動により、コミュニティ・集落、市町村、広域圏など、多様な圏域での活動が展開できる。地域の特性、ニーズや課題に応じ、市民、企業、行政等とのバートナーシップのもと、技術・ライフスタイル・経済社会システムのイノベーションを起こしながら社会変革を起こしていくことが期待されている。

図1 地域循環共生圏の概念図 出典)環境省資料

地域循環共生圏の取組例

〇再生可能エネルギーを活用した地域循環共生圏
地域の再生可能エネルギーを活用して地域新電力等のエネルギー会社を立ち上げ、地域の再生可能エネルギーを供給し、その売り上げ等を活用して地域課題を解決する取り組みが行われている。熊本市では、清掃工場を核にした地域新電力が立ち上げられ、電力の供給に加え、大型蓄電池設置や自営線設置とEV充電拠点整備がなされている。熊本市は、当該新電力から電気を購入し、削減された電力支出費を活用して、ZEH、EV等の導入補助として活用されている。
また、再生可能エネルギーによる広域連携の取組として、2020年11月に東京都世田谷区と新潟県十日町市との間で日本初のゼロカーボンシティ同士の電力連携協定が締結された。これにより十日町市の松之山温泉の地熱発電による電気が世田谷区民や公共施設に供給される。

〇地域資源を活用した地域循環共生圏
地域の農地や山林等から得られる資源を加工・活用した事業化し、地域課題を解決する取り組みが行われている。例えば、「みんなの奥永源寺」という会社がオーガニックコスメの販売により、絶滅危惧種の保存と限界集落の活性化に取り組んでいる。紫草という絶滅危惧種を耕作放棄地に栽培し、化粧品に加工、ツアーの開催により来訪者を増やしている。

〇廃棄物処理を軸とした地域循環共生圏
地域の廃棄物を資源として捉え、地域内で製品やエネルギー等へ転換する取り組みが行われている。例えば、「富山環境整備」では、2つの焼却発電設備から発生する電気と熱を利用して、28棟からなる温室ハウスでフルーツトマトやトルコギキョウを栽培している。栽培したトマトは加工品やパンの製造・販売にも活用されている。この次世代施設園芸の経験をもとに、地域住民と稲作を始め、農業従事者の高齢化や後継者不足などの地域課題解決に取り組んでいる。

地域循環共生圏を推進するツール~地域経済循環分析~

現在多くの地域においては、地域の資金の多くが地域外に流出している状況にある。地域循環共生圏構築の必要性を地域内で共有するためには、地域内の経済循環の実態を明らかにしていくことが有効である。
環境省は、自治体毎の産業別の生産額、雇用者所得、石油・ガスなどのエネルギーに使用している額、域外収支など、地域経済の特徴が一目でわかる分析ツールである「地域経済循環分析」を、環境省ウェブサイトに公開している。これにより「、地域からエネルギー代金の流出はどの程度か?」などの分析ができ、再生可能エネルギー推進施策の地域経済に与える効果を明らかにできる。

ESG地域金融の推進

地域循環共生圏の構築にあたっては、地域の資源を活用した新たな事業を立ち上げていくための資金が必要不可欠である。また、より良い事業を立ち上げていくために、地域金融機関がつなぎ手となって地域の関係者との連携・協働体制を構築していくことも必要である。
環境省では、2021年4月にESG地域金融実践ガイド2.0を策定した。これは、金融機関として地域循環共生圏の活動を支援するESG地域金融に取り組むための体制構築や事業性評価の事例をまとめたものである。

図2 地域循環経済分析の出力イメージ   出典)環境省資料

また、国と地方銀行との連携の取組も進められている。例えば、三井住友信託銀行と北海道地方環境事務所とのESG地域金融に関する連携協定により、地域循環共生圏や地域脱炭素の実現に向けて、金融機関による講師派遣やヒアリング、事業の掘り起こし等の伴走支援が行われている。

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