Keywords
キーワードで知るサステナビリティ
環境エンジニアリング
ヒートアイランド
ヒートアイランド現象
緑や水の豊富な田園地域に都市が形成されると、建物が立ち並び、人間の活動に伴う熱や汚染物質などが大量に排出されることで、周辺の田園地帯とは異なる特有の気候現象、いわゆる「都市気候」が発生する。都市気候は、人間が意図的に作り出したものではないが、人間活動で作られた現象であり、都市の発展とともに変化していく。都市気候の中で、周辺に比べて都市の気温が上昇する現象をヒートアイランド現象と呼ぶ。
ヒートアイランド現象が発生する要因を図1に示す。発生要因には大きく3つが挙げられる。最大の要因は、地表面被覆の変化に伴う対流顕熱の増加である。自然地域の緑地や河川等の水面、土壌面等の自然地被面が、コンクリートやアスファルト等の人工地被面に変化すると、蒸発潜熱が大きく減少し、表面温度が上昇して対流顕熱が増加する。コンクリートやアスファルトといった人工地被面の多くは不透水面であり、さらに熱容量(容積比熱)が大きいことも特徴があり、熱をためやすくなっている。
次の要因には、人工排熱による人工顕熱の増加が挙げられる。工場や自動車からの高温の排気や空調室外機からの排気により、人工顕熱が増加して気温上昇に繋がっている。さらに、都市に建物が高度に密集したため、都市の凹凸により日射吸収面の増加や、風通しの悪化による都市空間に熱がこもりやすくなっている。また、建物の密集は、街路空間の天空率を小さくし、放射冷却が阻害され、夜間に気温が低下しない要因となっている。
以上のように、ヒートアイランド現象は、都市が形成され、人間が活動することによって発生した現象といえる。

ヒートアイランド現象の影響
ヒートアイランド現象の進行に伴い、都市生活に様々な影響が顕在化している。まず、健康影響として、都市の気温上昇に伴い熱ストレスが増大し、熱中症患者や死亡者の増加が顕著となっている。また、熱帯夜日数が増えることによる睡眠阻害も挙げられている。都市の日中の気温が高くなることで上昇気流が発生しやすくなり、強雨が発生しやすい状況が増え、都市の地表面には不透水面が多いことから、集中豪雨が発生すると洪水になりやすく、防災上の観点で重要である。さらに、気温上昇は夏季の冷房負荷増加をもたらし、エネルギー使用量が増加する。エネルギー使用の増加は、化石エネルギー使用による地球温暖化にも影響し、気温上昇の「負のスパイラル」が起こる。最後に、生態系への影響として、冬季の最低気温の上昇ンも影響が植物や生物などに及んでいる。東京都内の植物園では、シュロの木の繁殖が進んでおり、デング熱の感染に関係するヒトスジシマ蚊の生息数も増えており、生態系への影響が健康に影響することも顕在化している。
以上の様に、ヒートアイランド現象が進行するに伴い、健康・防災・エネルギー・生態系などの面で、都市生活への影響が顕在化している。そのため、ヒートアイランドに対する対策の推進が必要である。
ヒートアイランド対策(緩和策)
ヒートアイランド現象の進行に伴う生活影響が顕在化していることから、対策が推進されている。2004年に「ヒートアイランド対策大綱」が制定され、国や自治体において建築ガイドラインの策定や補助事業など、総合的なヒートアイランド対策を体系化し推進されている。国土交通省は「人工排熱の低減」「地表面被覆の改善」「都市形態の改善」「観測・調査研究の推進」を軸に、緩和に向けた取り組みを進めており、「ヒートアイランド現象緩和のために建築設計ガイドライン」を策定している。また、地方自治体も独自のヒートアイランド緩和に向けた取組みを進めており、東京都や大阪府、愛知県などでは、ガイドラインや指針が制定され、気象・気候まちづくりや建物を新築する場合、対策取組みの実施が必要である。
ヒートアイランド現象の発生要因には、都市表面から緑地や水面、土壌が減り、不透水の人工被覆になることで、蓄熱や大気を加熱する熱の量が増えたこと、さらに人工排熱の増加や風通しの悪化などが挙げられるため、緩和に向け、都市・建物の緑化や保水性舗装・建材、日射の高反射化、人工排熱の削減などの対策が主に進められている。
ヒートアイランド対策(適応策)
一方で、ヒートアイランド現象の進行に伴う重大な影響の1つに、都市生活者の熱ストレスの増大があり、暑熱環境が人の生活に及ぼす影響として熱中症リスクが挙げられる。都市気温は、緑化などの対策の積極的な推進を図っても早急に低下するとは考えにくく、都市では高温状態の継続が予想される。環境省は、人の熱ストレスによる健康影響や大気汚染などの影響を軽減する対策としての適応策の推進が必要としている。
緩和策が、都市スケールでの気温上昇の抑制が目的であるのに対し、適応策では人の熱ストレス低減を目的としており、体感温度(温熱快適性指標)を評価指標として、人が実際に利用する局所的な空間での対策を推進する。適応策の推進により熱中症リスクを低減させ、温熱環境的に快適な空間の提供で暑熱環境に適応した生活が可能となる。「まちなかの暑さ対策ガイドライン」(環境省(2017))では、屋外空間の暑さ対策のポイントとして、図2に示す日射遮蔽・表面被覆対策、ミスト噴霧などを挙げ、暑熱環境に適応したまちづくりの重要性を示している。
