村松陸雄環境システム学科教授のコーディネートのもと、武蔵野大学 環境研究所客員研究員の早川公先生(大阪国際大学経営経済学部経済学科准教授)の講演会を盛会にて終えることができました。
「活発な議論は講演会後の懇親会(飲み会)まで続き、箸の袋にメモをとりながら議論を続ける姿は驚きました」(参加者の村山さんの感想)
日本建築学会 環境心理小委員会人類学的アプローチWG 拡大研究会
演題「まちづくりのエスノグラフィ:筑波山麓地域の開発プロジェクトを対象として」
講演者:早川公先生(大阪国際大学経営経済学部経済学科准教授、武蔵野大学 環境研究所客員研究員/人類学者)
概要:
「まちづくり」といった建築的な興味の対象に「人類学的」なアプローチをした実践の中で、どんな面白さや難しさが体験されたのかを伺い、人類学的アプローチの展望と限界について参加者ともども議論します。
日時:2018年9月10日 (月)14:00~16:15
※研究会終了後に懇親会を予定(希望者のみ)
場所:建築会館 305会議室
東京都港区芝5丁目26番20号
https://www.aij.or.jp/jpn/guide/map.htm
定員:26名(先着順)
参加費:無料
コーディネーター:村松 陸雄(武蔵野大学 工学部 環境システム学科教授)
主催:社団法人日本建築学会 環境心理小委員会人類学的アプローチWG
共催:未来の学びと持続可能な発展・開発研究会(みがくSD研)
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発表要旨:
「さっきからみんな『まちづくり』〜って言ってっけど、もう北条のまちはできてるべ?じゃあ、何をつくるのよ?」
この言葉は、筆者が初めて調査地である茨城県つくば市北条地区の会議で聞いたものである。商店街活性化やコミュニティ振興の際にしばしば用いられる「まちづくり」という用語と「『まちづくり』は何をつくるのか」という問い掛けは、フィールド調査の開始から大学教員として地域に関わる今に至るまで、発表者に付される「呪い」のようなものであった。
本発表の内容は、2012年に提出した博士論文「再帰的近代における「まちづくり」実践の民族誌―筑波山麓地域の開発プロジェクトを対象として」に基づいたものである。一般に「まちづくり」を扱う書籍や論文は、とりあげた対象や事例が「成功」しているなど「ネタの鮮度」がかなりの程度要求される。その意味で本書は、フィールドワークの時期から数えて10年近く経つ点において新鮮さからは程遠い。
一方で、「まちづくり」が少なくとも四半世紀以上の間、必要性を声高に叫ばれ続ける中で「新しい」取組みが登場しては消費され、成果に結実していないことも一面の事実であろう。今日においても、地域活性化の現場では「地方創生」や「地域再生」、「まちづくり」や「地域づくり」といった言葉が中身を確認されないまま流通していることが見受けられる。「まちづくり」が地域活性化のための実践だとすれば、「どうすれば『まちづくり』がうまくいくか」と考える思考の中に問題の根が潜んでいるのかもしれない。解決策を考える手前の、そもそも「『まちづくり』とは当事者たちにとってどのような意味を持つものであるか」と問うのは、既存の「まちづくり」という実践を考えるために意義あるものと発表者は考える。
そこで、発表では「まちづくり」を「ネタ(事例)の鮮度」と「特定課題の解決方法」という2つの要素から切り離して考えるドメイン(認識論的領域)を提示することを試みる。具体的には、「まちづくり」という現象を再帰的近代化進行のプロセスと設定した上で、その中で展開される人びとの実践を支える論理を人類学の手法であるフィールドワークに基づく視点から理解し、その様をエスノグラフィ(民族誌)として描く。
そしてそこから、発表者自身のふるまいも考察対象とし、「人類学的実践」と呼ばれる応用的ふるまいについて学術的な検討をおこなうことにしたい。